
母子栄養協会 代表理事 川口由美子先生インタビュー
葉酸やカルシウムが多いモロヘイヤは、妊娠中の女性におすすめ?母子栄養の専門家の先生に聞いてみた。


モロヘイヤは、食物繊維やカルシウム、葉酸など、妊娠中の女性が必要とする栄養素を豊富に含んでいます。そこで実際、モロヘイヤは「妊娠中の女性におすすめの野菜」といえるのか、妊婦さんや赤ちゃんの栄養に詳しい、一般社団法人 母子栄養協会 代表理事の川口由美子先生にお話を伺いました。
また、離乳食のレシピにもしばしば登場するモロヘイヤ。乳児にとってはどうなのか、あわせてお聞きしました。
妊娠前から気をつけないとダメ?妊産婦の食生活。
モロヘイヤが妊娠中の女性におすすめかどうかというお話の前に、今年、15年ぶりに改定された「妊産婦のための食生活指針」について教えてください。名称が「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 〜妊娠前から、健康なからだづくりを〜」に変わり、内容が改定されたようですが、この改定の背景にはどのような理由があるのでしょうか?
川口先生:近年、生まれた時の体重が2,500g以下の低出生体重児が増加しており、その主な原因は、ヤセ型の妊婦さんが増えたことにあるとされています。
妊娠中の母体の適切な体重増加は、健康な赤ちゃんを産むために必要ですが、最近の若い女性はヤセ型の割合が多く、妊娠しても適切に体重が増えない人が多いのです。そこで、「妊娠してから」ではなく「妊娠前から」バランスの良い食事をとり、健康な体作りを心がけることが必要であるという内容が、指針に盛り込まれました。

葉酸の推奨量が増えた理由とは。
妊婦さんや妊活中の人にとって気になる栄養素、「葉酸」の推奨摂取量も改定されたと聞きました。その理由について教えてください。
川口先生:ビタミンBの1つである葉酸は、十分に摂ることで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを低減することが明らかになり、最近特に注目されていますね。
神経管閉鎖障害とは、胎児の神経管ができるときにおこる先天異常で、二分脊椎や無脳症などがあり、様々な障害や死産につながります。
重要なビタミンなので、欧米では、小麦や塩など基本的な食材にあらかじめ添加して国民全員が摂取できるようにしている国も多いのですが、日本はそうしていません。欧米諸国に比べ、神経管閉鎖障害の疾病率が高いこともあり、今回の改定で推奨摂取基準を増やしたのです。
妊娠を希望する女性には、通常の推奨摂取量 240μgに加え、さらに 400μgの葉酸が必要ですが、非妊娠時の30歳未満の実際の摂取量は300μgにも達していないのが現状です。

食品ではなくサプリメントで摂るのがいいのは、なぜ?
厚生労働省の解説では、「妊娠計画中や妊娠の可能性のある時期」に、通常の食事から摂れる量に加えて「サプリメントや食品中に強化される葉酸として400μg摂取することが望まれる」とされています。摂る時期が妊娠前とされており、サプリメントが推奨されているのはなぜでしょうか。
川口先生:神経管閉塞症が起こるのは、妊娠を知るよりも早い時期(受胎後およそ28日)なので、妊娠を知ってからではなく、妊活中から増やす方がいいのです。
また、サプリメントが推奨されている理由は、葉酸の摂取推奨量は食品だけでは容易に摂れないことにあります。
少し専門的な話になりますが、食品中に含まれる葉酸は、複数のグルタミン酸が結合した「プテロイルポリグルタミン酸」。ポリグルタミン酸は、そのままでは体の中で使うことができず、分解され、「モノグルタミン酸」になってはじめて使われるために、実際利用される量は少なくなってしまいます。
これに対し、サプリメントなどのグルタミン酸は「プテロイルモノグルタミン酸」といい、そのまま使われるので利用効率が高いというわけです。
しかも、食品から葉酸を摂取するには調理が必要ですが、食品中に存在する葉酸は、水溶性で水に溶け出す性質があり、また熱に弱いため、効果的に摂るには調理法も限定されます。
妊娠計画中や妊娠の可能性のある時期には、たくさんの葉酸を摂りたいため、食材より吸収率の高い葉酸サプリメントから摂るように推奨されたということです。
葉酸は妊娠中期・後期や授乳期にも、多く摂る必要がある
胎児の神経管は妊娠のごく早い時期にできるとのことでしたが、先ほどの「女性の葉酸摂取の推奨量」を見ると、妊娠中期や後期、授乳期にも葉酸摂取の推奨量が通常よりも多いのですが、どうしてなのでしょうか?
川口先生:葉酸には、神経管閉鎖障害の予防だけではなく、血液を作る働きやDNA合成、タンパク質合成などさまざまな働きがあり、全ての人に重要な栄養素ですが、特に妊娠期や授乳期は、普段に比べ、食べる量を全体に増やして栄養をたくさん摂る必要があるので、必然的に葉酸の推奨量もアップするというわけです。
なるほど。葉酸だけでなく他の栄養素もたくさん摂る必要があるということですね。
妊産婦が特にたくさん摂りたい栄養素とは?
葉酸の他に、妊産婦が特に注意して摂りたい栄養素にはどんなものがありますか?
川口先生:まず、血液を作るための「鉄」がたくさん必要です。
母体からお腹の赤ちゃんに送られる鉄を「貯蔵鉄」と言いますが、赤ちゃんが生まれるときにもって行ってほしい栄養素なので、「鉄のお弁当」とも言われます。貯蔵鉄は多ければ多い方が、生まれてくる赤ちゃんの健康に良いとされます。
低出生体重児は早産になりやすく、その場合、貯蔵鉄が十分でないことが多いので、その点でも低出生体重児にならないように気をつけることが大切です。
それから、赤ちゃんの骨づくりに欠かせない「カルシウム」です。母体から大量のカルシウムが赤ちゃんに送られるため、不足していると、出産後の母体に骨粗鬆症などの問題が心配されます。
あと、妊娠中は腸が圧迫されるなどして便秘になることが多いので食物繊維をたくさん摂るべきですか?という質問もよくいただきます。
便秘改善の方法は、人によって、また症状によってもまちまちです。食物繊維や発酵食品、水分を摂ることで良くなることもありますが、適度な運動が有効なこともあります。体調をみながら、自分にあった方法を見つけるのがいいと思います。

妊産婦が控えるべき食品は?
逆に控えた方が良い食品にはどのようなものがありますか?
川口先生:はじめにお伝えしたいのは、「恐がりすぎないで!」ということです。
今はインターネット上などに情報が溢れている時代。「妊娠中に注意すべき食品」などと検索したら「これは危険!」という情報がたくさん出てきて、神経質になりすぎると「何も食べられない!」ということになりかねません。
「何も食べないこと」が一番危険、とおぼえておきましょう。
ほとんどの食品は、それだけを大量に食べ続けない限り、害は及ぼしません。色々なものをバランスよく食べることがベストなのです。食欲がないときは、食べられる物を見つけて食べるようにします。
気をつけなければならないものは、アルコール類と生ものくらいです。生のものは食中毒を起こす菌が増殖している可能性があるので避けてください。ナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモンなど、加熱していない食品、特に海外のものは殺菌されていないことがあるので、注意が必要です。
ビタミンAは摂りすぎると胎児に先天異常を起こすと言われますが。
川口先生:確かに、レバーなどはビタミンAを多く含むので注意が必要ですが、毎日食べ続ける人はいないと思います。時々食べるくらいならば心配は不要です。
カフェインもよく「摂らない方がいいですか?」ときかれますが、コーヒーを1日2杯くらいなら問題にはなりません。カフェインを避けてハーブティーを飲む人もいますが、むしろハーブには様々な薬効があり、母体に影響を及ぼすので、注意が必要です。
とにかく、いろいろなものをバランスよく食べることが大切です。特にビタミンやミネラルの豊富な野菜はぜひ、たくさん摂っていただきたいです。
モロヘイヤはどうでしょうか?
川口先生:モロヘイヤだけをたくさん食べるべきというわけではありませんが、様々な栄養素を豊富に含むモロヘイヤは、おすすめの野菜の1つです。
モロヘイヤは、赤ちゃんの離乳食にもOK!
モロヘイヤを、赤ちゃんの離乳食に使うことについてはいかがですか?
川口先生:そうですね。柔らかく茹でて細かく刻めば乳児でも大丈夫です。
自然のとろみが、他の食材を包み込んで、食べやすくしてくれると思います。おかゆに混ぜたり、白身魚と和えたり、いろいろと重宝しそうですね。
とにかく、いろいろなものをしっかり食べましょう。
普段、妊産婦さんや妊活中の人からは、どんなご相談が多いですか?
川口先生:忙しい人が多いのか、あまり料理に時間を割けない人が増えていると感じます。そのような方でもしっかり栄養が摂れるように、簡単な調理法や時短料理などをおすすめしています。
レトルトや出来合いのものなど、簡単に食べられる便利な食品も増えているので、そういったものをうまく活用するのもいいと思います。とにかく、いろいろなものをしっかり食べることが何より大切です。
本日は、貴重なお話、どうもありがとうございました。