監修:管理栄養士 平井美穂先生
第6回
<β-カロテン>
β-カロテンといえばニンジンが有名ですね。ところが、モロヘイヤのβ-カロテン含有量はとても多く、ニンジンにも優っていることはあまり知られていません。
また、β-カロテンという名前はよく耳にしても、詳しい特徴については、よく知らないという方も意外と多いのではないでしょうか。
少し耳慣れない言葉ですが、フィトケミカルとは植物が作り出す様々な成分のこと。植物にとって有害なもの(紫外線や昆虫の攻撃)から身を守る手段として、植物も様々な化学物質を自ら作り出しているのです。
植物の色素や香り、辛味や苦味などに含まれるこの成分が、人間の体にとっても良い作用として働くことがわかってきたため、最近では、健康のために摂るべき栄養素の一つとして注目されているのです。
フィトケミカルには、数千以上の種類があると言われていますが、大きく分類すると、「ポリフェノール」「カロテノイド」「含硫化合物」「テルペン類」「多糖類」の5つに分けられ、それぞれ作用が異なります。
※ フィトケミカル【phyto chemical】:ファイトケミカルとも言います。「phyto」はギリシャ語で植物の意。フィトケミカルとは、植物に含まれる化学成分という意味です。
カロテノイドには、強い抗酸化作用があります。抗酸化作用によって、体内での活性酸素の発生を抑えたり、取り除いたりしてくれるので、体の老化を抑え、動脈硬化やがん、生活習慣病などの予防にも効果があると考えられます。
また、β-カロテンには、体内で必要な分だけビタミンAに変換されるという特徴があります。これによって、ビタミンAが持つ健康効果も期待できるのです。
体内でビタミンAに変換される成分は「プロビタミンA」と呼ばれ、β-カロテン以外にも、α-カロテンやβ-クリプトキサンチンなど約50種類くらいあります。
ビタミンAには、皮膚や粘膜の新陳代謝を促進する働きがあるので、美肌効果が期待でき、粘膜の強化によって免疫機能を高める効果、そして視力を維持して夜盲症を予防・改善する効果などがあります。
さらに、他の栄養素の働きを助ける役割もあります。ビタミンB群やビタミンD、ビタミンEなどは、ビタミンAが十分にないと効果を発揮できないと言われています。
そんな重要なビタミンAに、必要な分だけ変身できるβ-カロテン、とても重宝な栄養素ですね!
『日本人の食事摂取基準(2020年版)』にβ-カロテンの必要量は示されていません。前述のとおり、β-カロテンは体内でビタミンAに変わるため、ビタミンAの摂取推奨量で見ます。男性850〜900µgRAE※、女性650〜700µgRAEでどちらも上限は2,700µgRAEとされています。
ビタミンAの量とは、レバーやウナギ、鶏卵などの食物から直接摂る分と、β-カロテンなどプロビタミンAが変化してビタミンAになった分の合計量です。
栄養状態の良い先進国ではビタミンA欠乏はほとんどみられません。
逆に、摂りすぎると頭痛などの中毒症状が出ることがあります。レバーなどビタミンAの含有量が特に多い食品の食べすぎは注意が必要ですが、β-カロテンから摂る場合は、必要な分だけがビタミンAに変換されるので安心です。
※ µgRAE【レチノール活性当量】:動物性食品に含まれるレチノールの量と、主に植物性食品から摂取されるβ-カロテンなどのカロテノイドが体内でビタミンA作用をする場合の換算量との合計。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
β-カロテンを多く含む野菜を以下のグラフにまとめました。
(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
生の状態での数値で比べたグラフですが、モロヘイヤはしそ葉についで2番目にβ-カロテンの多い野菜だということがわかります。β-カロテンといえばニンジンが有名ですが、実は、しそ葉やモロヘイヤ、パセリのほうが多いのです。
モロヘイヤに含まれるカロテノイドとしては、β-カロテンの他に、ルテインも豊富に含まれています。またポリフェノールの含有量についても、モロヘイヤは非常に高いことが知られています。
β-カロテン、ルテイン、さらにポリフェノールも多いということで、高い抗酸化力が推測されるモロヘイヤですが、それを裏付ける研究結果がありますので、以下にご紹介します。
山梨県総合理工学研究機構がおこなった「県産野菜の抗酸化活性評価」の結果を示したグラフです。モロヘイヤが群を抜いて抗酸化力が高いという結果が出ています。あまりに数値がずば抜けているため、モロヘイヤのグラフは一部、波線で省略してあります。
参考:平成17年度 山梨県総合理工学研究機構 研究報告書 第1号
この抗酸化活性の評価結果は、β-カロテンやルテインなどのカロテノイドだけによるものではなく、ポリフェノールやビタミンC、ビタミンEなど、野菜に含まれる抗酸化物質の総合的な抗酸化力の結果によるものですが、β-カロテンも大いに貢献していると思われます。
この実験では「DPPHラジカル消去活性」という方法を使って調べています。
DPPHラジカル消去活性とは
体内で細胞を酸化させるラジカル(活性酸素)の代わりに人工的に作られたラジカルであるDPPHに対する消去能を評価します。DPPHラジカルは溶媒に溶かすと紫色をしていますが、この溶液に抗酸化物質を含む抽出液を加えると、DPPHラジカルが消去され色が薄くなります。この色の吸光度を測定し抗酸化力を評価します。
この研究結果と同様に、株式会社青粒と兵庫県神戸市の甲南大学の共同研究でも、モロヘイヤの高い抗酸化力が確認されています。詳しくは以下のページをご覧ください。
PROFILE
監修:平井美穂(ひらいみほ)
管理栄養士 / 食物栄養学修士 / 調理師 / NPO関西ウエルネス研究所理事
平井外科胃腸科クリニック(神戸市東灘区岡本)、その他透析病院等を含め医療機関にて栄養指導を行う。
百貨店・食品メーカー講師、レシピ提案など、乳幼児から高齢者までを対象に幅広い年齢層に対し、食と健康に関する講演会や料理講習会を行う。
管理栄養士
平井先生のひとことコメント
高い抗酸化力が謳われるβ-カロテンは、免疫力の向上やアンチエイジング効果も期待される栄養素ですが、‘にんじんにも優るモロヘイヤのβ-カロテン!’ 驚きですね。
β-カロテンは皮膚や粘膜の健康を守る働きがあることから美肌づくりには欠かせない栄養素。それに加え、モロヘイヤには紫外線やブルーライト、加齢から視力を守る ‘ルテイン’ という成分も多く含むことから目を酷使する現代社会においては、旬の夏のみならず、できる事なら年中摂りたい野菜です。
β-カロテンは脂溶性ビタミンなので油分と合わせると吸収が良くなります。食べ合わせる食材の油分や少量の油と合わせて摂るのが得策です。
モロヘイヤのビタミンA・Cと植物油のビタミンEが合体すればビタミンACE(エース)に!
相乗効果で体内の活性酸素を抑える ‘抗酸化作用’ は最大限に発揮されることでしょう。