モロヘイヤ効果研究所
モロヘイヤ解体 栄養コラム

監修:管理栄養士 平井美穂先生

モロヘイヤ解体 栄養コラム
管理栄養士 平井美穂 先生
管理栄養士 平井美穂 先生

第15回

<カリウム>

減塩+カリウムで、高血圧対策!

日本人は、おおよそ成人の3人に1人、高齢者の3人に2人が高血圧と言われています。

食塩の摂りすぎは、高血圧の原因の1つとなることが知られていますが、日本人は昔から他の国の人々に比べて食塩の摂取量が多く、減塩問題は健康管理の重要課題です。

必須ミネラルの一つ、カリウムは塩分調整の強い味方。血圧が気になる方に、ぜひ知っていただきたいミネラルです。

必須ミネラルとは

114種類あるミネラルのうち、人間の体内に存在して、栄養素として欠かせない16種類を「必須ミネラル」といいます。

カルシウム、リン、カリウム、硫黄、塩素、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、クロム、ヨウ素、セレン、モリブデン、コバルトがその16種類。体内では作ることができないため、食べ物から摂取する必要があります。

高血圧はなぜおこるのでしょう?

さて、塩分と血圧のお話です。

ナトリウムは必須ミネラルですが、食塩(塩化ナトリウム)を過剰に摂りすぎると、血液中の濃度が濃くなりすぎ、それを薄めるために血液中の水分が増えて血液量が増えます。血液量が増えると、ポンプである心臓がより大きな圧力をかけるため血圧が上がります。

日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、1日の塩分摂取量(食塩摂取量)の目標量は、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。

高血圧患者に関しては、高血圧予防や治療のために、1日6g未満に減塩することが推奨されています。

また、世界保健機関(WHO)は、2013年のガイドラインで、成人の食塩摂取量の目標値を1日5g未満とすることを推奨しています。

これに対し、日本人の実際の食塩摂取量の平均値は、1日 10.1g。WHOの目標値の倍以上になっています。(2019年 厚生労働省による『国民健康・栄養調査結果の概要』より)

塩分摂取で血液量が増えるメカニズム

人間の体液の塩分濃度は、厳密に 0.9%を維持する必要があります。

この濃度が狂うと、細胞膜の浸透圧に影響を与えてしまい、日々、細胞膜を通してさまざまな物質を出し入れしている細胞が正しく機能しなくなってしまいます。

塩分濃度 0.9%の維持は、人体のホメオスタシス(恒常性)維持の絶対条件なのです。

さきほど、血液中の塩分濃度が高くなると、血液中の水分が増えるとお話しましたが、その水がどこから来るのかというと、実は、細胞の中から放出されます。

人間の体の約60%は水分です。その水分のうち3分の2は細胞内に蓄えられており、残りの3分の1が、血液中の血しょうとリンパ液、細胞の間を満たしている細胞間液です。(60%の内訳は、細胞内液 40%、細胞間液 15%、血しょう+リンパ液 5%)

細胞内液が、細胞外液の2倍もあることが、塩分濃度の維持のために、とても重要なのです。

体内にナトリウムイオンが増えると、それが合図になって、細胞内の水分は細胞外に放出されます。これは細胞膜の「浸透圧」による作用です。

ブラザーイオン、ナトリウムとカリウムが浸透圧を生み出す

「浸透圧」とは、半透膜によって仕切られた液体の濃度を均一にするために、濃度の低い方から高い方へと水分が移動する力のことです。

細胞膜は、水やイオンなど、さまざまな物質を通す半透膜ですが、ナトリウムイオンが細胞の中にまで入ってしまうと、濃度差が生まれません。濃度差が生まれないと、浸透圧が発生しないので、水分の移動も生じません。

実は、細胞膜には、ナトリウムイオンを細胞の外に汲み出すポンプのような仕組みがあります。これを「ナトリウム-カリウムポンプ」と言います。

「ナトリウム-カリウムポンプ」は、細胞内のナトリウムを細胞外へ汲み出し、細胞外のカリウムを細胞内に汲み入れます。

このポンプがあるため、体内のカリウムイオンの約90%は細胞内にあり、細胞の外にはほとんどありません。(細胞内液:90% 骨:8% 細胞外液:2%)

また、ナトリウムイオンはほとんどが細胞外液と骨の中にあって、細胞内には2%しか存在しません。(細胞外液:55% 骨:43% 細胞内液:2%)

体内の塩分濃度が上がったとき、細胞内外のカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差によって浸透圧が生まれ、細胞内の水が細胞外に放出されます。ナトリウムとカリウムは、細胞膜の浸透圧によって体液の塩分濃度を調節しているのです。

ナトリウムとカリウムが “ブラザーイオン” と呼ばれるのはこのためです。

この働きによって、体液の塩分濃度が維持されるのですが、同時に、血管内の水分量が増えて血圧が上昇するというわけです。血圧が上がれば、当然、血管壁や心臓に負担をかけます。この状態が長引けば、今度は別の問題が発生してしまいます。

だからこそ、塩分を控えた食事が大切、というわけですね。

塩分濃度を下げる、カリウムのもう一つの役割

血液中の余分なナトリウムは、腎臓で尿中に排出されます。

不要な分だけが排出されるというよりも、一旦ほとんどが排出されたあとに、必要な分だけ再吸収される仕組みになっています。

このナトリウムの再吸収に関与しているのがカリウムです。

カリウムが多いと、ナトリウムの再吸収が抑制され、カリウムが少ないと、ナトリウムの再吸収が促進されてしまいます。

血液中の塩分濃度を下げるには、減塩とともに、腎臓での排出量を増やすことも必要。その点でもカリウムはとても重要なミネラルですね。

カリウムの多い食品

カリウムは、野菜や藻類など、植物性の食品に多く含まれます。水に溶ける性質があるので、長時間茹でたり、水にさらしたりすることで量が減ります。たくさん摂るには調理の工夫も大切ですね。

カリウムを多く含む食材の含有量をグラフで示しました。

切り干し大根や、乾燥わかめなどの乾物は、数値が大きくなりますので、グラフからははずし、参考数値だけを入れています。

カリウムを多く含む食品
(食品100gに含まれるカリウム量)

野菜に含まれるカルシウムとカルシウム吸収を助ける栄養素の含有量

日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

カリウムの1日の摂取基準量

日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、1日のカリウム摂取量の目安は、18歳以上の男性では 2,500㎎、女性では 2,000㎎です。また高血圧の一次予防のための目標量としては、18歳以上の男性では 3,000㎎、18歳以上の女性では 2,600㎎と設定されています。

平井美穂

管理栄養士

平井先生のひとことコメント

平井美穂

高血圧予防のためにも不足しないように摂りたい「カリウム」。

カリウムは、新鮮な野菜やフルーツ、海藻、芋、豆、抹茶などに多く含まれます。水に溶け出る性質をもつことから、煮汁(スープ)ごと食べるのが得策です。

カリウムは、日常私たちが食べているほとんどの自然食品に含まれるため不足する心配はありませんが、より多くのカリウムを摂ろうと思えば

● 朝食時にサラダやフルーツ、野菜ジュース、果汁をとる

● 昼食時の飲み物に青汁をとる

● 持ち歩く水筒に、緑茶や青汁を入れる

● 昆布のだしを使う

● 料理やスープに柑橘(レモンや柚子、すだちなど)を絞る

● 毎食、少量でも野菜をつける

● 食後や間食にフルーツやナッツをとる

など、少しの心がけで十分な量が摂れます。

厚生労働省による都道府県別生命表(2015年)をみると、男性で最も平均寿命が長いのが「滋賀県」で 81.78歳、次いで「長野県」81.75歳。女性で最も平均寿命が長いのが「長野県」で 87.675歳。

元々雪国で塩分摂取量が多く、脳卒中の比率が高い地域だった「長野県」が、1975年以降、常に平均寿命の上位にランクインしています。

その理由として、野菜の摂取量が多い、喫煙率や肥満率が低い、高地だから自然と内臓が鍛えられる、など考察されていますが、その中でも特に「減塩」に力を入れ、高血圧を予防する食生活に改善したことで、平均寿命を飛躍的に延ばしたと言われています。

私たちも見習い、減塩と十分なカリウムで、健康寿命を延ばしましょう。

PROFILE

管理栄養士・平井美穂

監修:平井美穂(ひらいみほ)

管理栄養士 / 食物栄養学修士 / 調理師 / NPO関西ウエルネス研究所理事

平井外科胃腸科クリニック(神戸市東灘区岡本)、その他透析病院等を含め医療機関にて栄養指導を行う。
百貨店・食品メーカー講師、レシピ提案など、乳幼児から高齢者までを対象に幅広い年齢層に対し、食と健康に関する講演会や料理講習会を行う。

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