モロヘイヤ効果研究所
モロヘイヤ解体 栄養コラム

監修:管理栄養士 平井美穂先生

モロヘイヤ解体 栄養コラム
管理栄養士 平井美穂 先生
管理栄養士 平井美穂 先生

第17回

<葉酸>

妊娠前から授乳期まで、
妊娠を希望する女性には特に大切な「葉酸」。
実は全ての人に必要な栄養素だった!

妊娠前から授乳期の女性にとって特に大切な栄養素として知られているビタミンB群の一つ「葉酸」ですが、近年、脳卒中や心筋梗塞、うつ病、骨粗鬆症、認知症など多くの病気と関わる重要な栄養素だということがわかってきています。国民の健康状態に関わるとして、海外では、主食となるような穀類に葉酸を添加することを法律で義務付けている国もあるようです。

日本では穀類への添加はされておらず、1日あたりの摂取推奨量240μg(12歳以上の男女)を摂取するかどうかは、個人の食事内容にかかっています。日本人は十分に葉酸が摂れているのか、気になるところです。

妊娠中の女性

赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを減らす

葉酸の重要な働きの一つとして、二分脊椎症や無脳症など、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを抑える働きが挙げられます。

二分脊椎症や無脳症は、1990年代になって葉酸の不足が原因となっていることが判明。各国が葉酸の摂取に力を入れた結果、二分脊椎症発生数は全体的に大幅に減っています。

そんな中、日本だけは最近まで二分脊椎症発生数が増えていましたが、2000年になってようやく厚生労働省が、妊娠前〜妊娠初期の女性に葉酸の摂取を奨める通知を出し、少しずつ認知が広まりました。

2021年、15年ぶりに改訂された「妊産婦のための食生活指針」

2021年、国は「妊産婦のための食生活指針」の名称を「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 〜妊娠前から、健康なからだづくりを〜」と改めました。痩せ型の妊婦さんが増え、それに伴って低出生体重児が増えたことが原因と言われています。

健康な赤ちゃんを産むためには、適切な体重増加が必要ということです。それと同時に見直されたのが、葉酸の推奨摂取量です。十分に摂ることが神経管閉鎖障害のリスクを低減することが明らかになったために、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性のある女性及び妊娠初期の妊婦は、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400㎍/日摂取することが望まれる、という内容になりました。

(狭義の葉酸)というところが気になりますね。次に解説します。

女性の1日あたりの葉酸摂取の推奨量

女性の1日あたりの葉酸摂取の推奨量

※厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)より

葉酸には2つの種類がある

葉酸には、モノグルタミン酸ポリグルタミン酸という2つの種類があります。

上のグラフの吹き出しに「サプリメントなど狭義の葉酸(プテロイルモノグルタミン酸)」とありますが、「プテロイルモノグルタミン酸」とは、化学的に合成されたモノグルタミン酸の名前。つまり狭義の葉酸とは、加工食品やサプリメントに添加されているモノグルタミン酸のことです。

モノグルタミン酸とポリグルタミン酸では、体内での利用率が全く違い、モノグルタミン酸:ポリグルタミン酸=100:60くらい。

ポリグルタミン酸は複数のグルタミン酸が結合した葉酸で、体内でいくつもの工程を経ないと利用できません。その過程で栄養素が損なわれるため、最終的には60%程度しか利用できないのです。

食事中の葉酸は(動物性も植物性も)ほとんどが、ポリグルタミン酸です。

つまり、計算上400μgを食事で摂ったとしても、実際に利用できるのは60%なので、240μgということになるのです。これに対してモノグルタミン酸は、ひとつのグルタミン酸が結合した葉酸。100%利用されます。

つまり、妊娠前〜授乳期の女性が、食事性葉酸 240μgに加えて摂るべき葉酸は、狭義の葉酸(サプリメント)なら400μg、サプリメントなどを利用せず食事性葉酸で摂るなら667μgということになります。

葉酸 vs ホモシステイン

胎児の先天性異常だけではなく、葉酸は、十分に摂れていないとさまざまな病気のリスクを高めることがわかってきました。全ての人の健康に関わる栄養素だからこそ、世界各国で十分な摂取のための取り組みがなされているとも言えます。

この葉酸が体を守るメカニズムに大きく関わっているのが「ホモシステイン」という物質です。聞きなれない名前かもしれませんが重要な物質です。

ホモシステインは、必須アミノ酸のひとつメチオニンが代謝されてできるアミノ酸。体にとって良い物質を作る大事な材料ですが、代謝がうまくいかず血液中に増えすぎると、「高ホモシステイン血症」となり、血管の内側を傷つけたり、活性酸素を発生させたりして、その結果、以下のように、いろいろな病気のリスクを高めてしまいます。

葉酸によるホモシステインの無害化

葉酸によるホモシステインの無害化

<血管の内側を傷つける>

→ 心筋梗塞、脳卒中、認知症の原因に。アテローム硬化や石灰化で血管が硬くなり血流が悪くなる動脈硬化ですが、ホモシステインが血管を傷つけることでさらに病気につながる危険性が高くなります。

<活性酸素を発生させる>

→ 老化の原因に。シミ、シワなど美容面も気になりますが、脳梗塞、心筋梗塞、がん、糖尿病、肺炎、認知症、リウマチ…など多くの病気を引き起こすリスクを高めます。

葉酸は、このホモシステインを元のメチオニンに戻して再利用したり、無毒化したりする働きがあるので、血中に大量のホモシステインが流れ出て悪さをするのを防いでくれる、重要な栄養素なのです。

葉酸の働き

実は不足しているかもしれない?!

2019年の厚生労働省発表の国民健康・栄養調査によると、日本人の1日あたりの葉酸摂取量の平均は成人男性が310マイクログラム、女性は295マイクログラムでした。

※ 新型コロナ感染症の影響で、2020年、2021年の国民健康・栄養調査は、中止されていますので、現時点での最新調査結果は2019年版です。

日本の推奨値は240マイクログラムなので、確かに満たしてはいます。しかし、香川靖雄氏は、著書『あなたの健康寿命は「葉酸」で延ばせる』の中で、日本人は葉酸が不足している、と警鐘を鳴らしています。

その理由の1つ目は、摂取推奨量自体が低いこと。
推奨量を400μgにしている国もあることを考えると、240μgは確かに低めかもしれません。(一般の推奨量240μgには「モノグルタミン酸で」の但し書きはない)

理由の2つ目は、葉酸不足になりやすい遺伝子が存在するということ。
この遺伝子を持つ人は、通常の30%程度しかホモシステインをメチオニンに戻すことができず、ホモシステイン濃度が高くなってしまうのですが、日本人の約15%がこの遺伝子を持っているそうです。

理由の3つ目は、代謝能力には個人差があるということ。
例えば高齢者は代謝が落ちて栄養の吸収力が低下しているので、摂取しただけの葉酸が利用できない可能性があります。

これらの理由から、香川氏は日本人も1日400μgを目標に葉酸を摂ることを奨めています。

葉酸を十分に摂るには

サプリメントや葉酸が添加された米などもありますが、やはり毎日の食事から十分な量を摂ることが理想ですね。葉酸の多い食材を表にしましたので参考にしてください。

食品100gあたりの葉酸含有量

食品100gあたりの葉酸含有量

日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

食品100gあたりの葉酸含有量2
100g中の含有量は多いが、
実際の使用量で計算すると極端に少なくなる食材

<食材の保存や調理の注意点>

● 葉酸は光にあたると徐々に分解され量も減ります。野菜などは光を遮って保管し、早めに食べましょう。

● 水溶性ビタミンなので、茹でると20〜30%減ってしまいます。一方、葉酸は熱に弱いと言われていますが、短時間の「蒸す」「炒める」調理ではほとんど減少しないという実験結果がでているようです。

● 推奨量の葉酸を1回の食事で摂るのは大変です。食事ごとに少しずつ摂るほうがいいでしょう。葉酸は体内で使われなかった分は、排出されます。その意味でも絶やさないよう、頻繁に摂ることをお奨めします。

● 食品からの摂取を十分にできない場合は、サプリメントや葉酸を添加した「サプリ米」などを利用する方法もあります。

葉酸をしっかり摂って、健康寿命を延ばしましょう!

平井美穂

管理栄養士

平井先生のひとことコメント

平井美穂

「葉酸」は読んで字のごとく「葉っぱ」の酸。緑の葉野菜に多く含まれ、その他、果物、海藻、豆類などの植物や、レバー、肉類などの動物性たんぱく質にも含まれる水溶性ビタミンB群の一種です。

栄養バランスのとれた食事を心がけていれば、不足することも摂り過ぎることも心配はいりませんが、サプリメントなどで摂る場合には過剰にならないよう注意しましょう。

妊娠前・初期にかけて葉酸が不足すると胎児に悪影響を及ぼす可能性があることから、特に妊娠を望む女性は日頃から野菜や果物が不足しないよう心がけなければなりません。

葉酸に関してはサプリメントで摂ることも推奨されていますので、医師の指示に基づき、必要に応じて利用してください。

レバーには多くの葉酸が含まれますが、胎児に催奇形性のある動物性ビタミンAも多く含まれることから特に妊婦の方はレバーから摂ることはお控えいただき、野菜や果物から十分な葉酸やビタミンAを摂っていただきたいと思います。

参考:『あなたの健康寿命は「葉酸」で延ばせる − 脳梗塞・認知症を遠ざける最強ビタミン』
著者:香川靖雄
発行:株式会社ワニ・プラス

PROFILE

管理栄養士・平井美穂

監修:平井美穂(ひらいみほ)

管理栄養士 / 食物栄養学修士 / 調理師 / NPO関西ウエルネス研究所理事

平井外科胃腸科クリニック(神戸市東灘区岡本)、その他透析病院等を含め医療機関にて栄養指導を行う。
百貨店・食品メーカー講師、レシピ提案など、乳幼児から高齢者までを対象に幅広い年齢層に対し、食と健康に関する講演会や料理講習会を行う。

第1回
栄養コラム

「王様の野菜」モロヘイヤ

第2回
栄養コラム

<食物繊維 ①>

「食べ物のカス」から「第6の栄養素」に大出世 !! その理由は …。

第3回
栄養コラム

<食物繊維 ②>

今、大注目!食物繊維のすごい作用とは。

第4回
栄養コラム

<食物繊維 ③>

腸内細菌の活躍を支える、食物繊維の底力。

第5回
栄養コラム

<食物繊維 ④>

日本人の食物繊維を食べる量、実は足りていない!?

第6回
栄養コラム

<β-カロテン>

必要な分だけビタミンAに早変わり。驚異の抗酸化力、β-カロテン

第7回
栄養コラム

<カルシウムと骨の話 ①>

カルシウムの意外な役割

第8回
栄養コラム

<カルシウムと骨の話 ②>

牛乳だけではダメなワケ

第9回
栄養コラム

<カルシウムと骨の話 ③>

一緒に摂るべき栄養素はコレ!

第10回
栄養コラム

<ビタミンB群 ①>

ビタミンB群は、体内の化学反応を助けるサポーター

第11回
栄養コラム

<ビタミンB群 ②>

チーム・ビタミンB群集結!ミッションは、エネルギーを作り出すこと

第12回
栄養コラム

<ビタミンB群 ③>

野菜からビタミンB群を摂るなら、モロヘイヤ一択!

第13回
栄養コラム

<ビタミンE ①>

“若返りのビタミン” ビタミンE

第14回
栄養コラム

<ビタミンE ②>

“免疫機能増強ビタミン” ビタミンE

第15回
栄養コラム

<カリウム>

減塩+カリウムで、高血圧対策!

第16回
栄養コラム

<鉄>

微量の鉄の大きな仕事

第17回
栄養コラム

<葉酸>

妊娠前から授乳期まで、妊娠を希望する女性には特に大切な「葉酸」。実は全ての人に必要な栄養素だった!

第18回
栄養コラム

<ビタミンK>

骨、血管を守り、さらに新機能の報告も。ビタミンKは注目度急上昇中!

第19回
栄養コラム

<ポリフェノールとカロテノイド>

抗酸化物質で活性酸素を撃退しよう!