モロヘイヤ効果研究所
モロヘイヤ解体 栄養コラム

監修:管理栄養士 平井美穂先生

モロヘイヤ解体 栄養コラム
管理栄養士 平井美穂 先生
管理栄養士 平井美穂 先生

第16回

<鉄>

微量の鉄の大きな仕事

私たちの体の中にある鉄の量は、ほんの2、3g。
この少量の鉄が、実は生命の維持にとって重要な働きを担っています。

「酸素を運ぶ」という重要任務

血液検査などでよく耳にする「ヘモグロビン」は、鉄とグロビンというタンパク質が結合してできた化合物のこと。鉄の全体量のうちの2/3がヘモグロビンを作ることに使われ、残りの1/3は、必要に応じてすぐに取り出せるように、筋肉の中や肝臓、脾臓、骨髄、腸などの臓器に貯蔵されています。

ヘモグロビンは血液の赤血球の中にあり、肺で取り込んだ酸素を全身に運ぶという、とても大事な役目を担っています。また反対に、代謝の老廃物である二酸化炭素を全身の組織から肺に運ぶ仕事もしています。

鉄

酸素を使って作ったエネルギーで保たれている私たちの体にとって、ヘモグロビンの働きはまさに生命線。その材料となる鉄の供給も重要です。そのため、赤血球が古くなって廃棄される際にも鉄は廃棄されず、肝臓や脾臓で処理されて再利用される仕組みになっています。

鉄が不足すると…

鉄の供給が減って、さらに貯蔵鉄も無くなると、ヘモグロビンが減少し、すみずみまで酸素が行き渡らなくなって体が酸欠状態になります。これが「鉄欠乏性貧血」。鉄欠乏性貧血は、貧血の7〜8割を占めています。

こうなると心臓は、酸素不足を解消しようと大量の血液を流して鼓動を早めます。すると、呼吸が激しくなり、肺や心臓に負担がかかり、それによって、めまいや息切れ、動悸、食欲不振、さらに、筋力の低下や倦怠感などの症状が起こります。これをそのまま放置して悪化すると、心臓肥大など重篤な病気を引き起こすこともあります。

酸素を運ぶだけじゃない。美肌にも心の健康にも鉄!?

ちょっと意外かもしれませんが、鉄は皮膚の状態にも影響を与えます。皮膚は90%がコラーゲン。そのコラーゲンを作る材料は、たんぱく質とビタミンC、そして鉄なのです。鉄は美肌作りにも重要な栄養素。不足すると、肌荒れやくすみの原因になります。

鉄が不足して頭皮の状態が悪化すると、髪の毛に栄養が行き渡らず、パサつく、抜け毛が増えるなど、トラブルの原因になります。

また、鉄は心の不調やうつにも関係しています。脳の神経伝達物質で「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンや、夜の睡眠を促すメラトニンは、トリプトファンというアミノ酸から作られますが、それらが作られる工程で鉄が必要。セロトニンやメラトニンが作られないと、心の健康にも大きく影響します。

「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」

栄養素の鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があります。

「ヘム鉄」は、肉や魚など動物性食品に多く含まれる鉄。前述のように、タンパク質と結合して、ヘモグロビンや各種酵素を構成します。

一方、「非ヘム鉄」は、野菜や穀類に多く含まれる無機質の鉄。

ヘム鉄はそのままの形で吸収されますが、非ヘム鉄は還元の工程を通らないと吸収されないので、体への吸収率はヘム鉄のほうが5〜6倍高いと言われています。

日本人は鉄不足?

ビタミンA、ヨウ素と並んで、世界の三大欠乏微量栄養素の1つとされる鉄ですが、日本人も例外ではないようです。

鉄欠乏性貧血の男女比は1:5〜6と圧倒的に女性が多く、日本人女性の約10人に1人は貧血で、月経のある女性に絞ると、その数は5人に1人とも言われています(2015年厚生労働省の調査)。

女性は、月経により、1日あたり約0.5mgの鉄を失いますが、妊娠や出産、授乳期にも大量の鉄を失いますし、無理なダイエットによって鉄の摂取量が減ってしまう女性も多いようです。また、子宮筋腫や悪性腫瘍などに罹った場合にも、出血により鉄が失われます。女性の生涯は貧血の危険と隣り合わせ。十分に摂るように気をつけたいですね。

不足しないために摂りたい鉄の量は?

鉄欠乏性貧血にならないためには、どのくらいの鉄を食事で補えばいいのでしょうか?

効率的に鉄の補給をするには、体への吸収率の高い動物性食品でヘム鉄を摂るのがいいのですが、野菜や海藻などを中心とした植物性食品の割合が多い日本人の食生活では、吸収率の低い非ヘム鉄からの補給が7割を占めるのだそうです。

厚生労働省ではその点を踏まえ、成人男性で7.5mg、月経のある女性で10.5mg、月経のない女性は6.5mgの鉄を摂ることを推奨しています。

それに対し、実際の日本人の鉄摂取量は、男性が8.0mgで、女性が7.3mg(男女平均は7.6mg)ですから、月経のある女性の鉄分摂取が、大幅に不足しているということです。

鉄の1日の摂取推奨量

必要鉄量

厚生労働省「e-ヘルスネット」より

鉄だけではダメ!

十分な量の鉄を摂ることはもちろん大事ですが、吸収率の低い非ヘム鉄を多く摂っている日本人には、吸収率を高めてくれる他の栄養素を一緒に摂ることが重要です。

ヘモグロビンの材料になるタンパク質や、鉄の吸収を高めるビタミンC、赤血球が作られる時に必要な葉酸やビタミンB12、ヘモグロビンの合成に必要な銅や亜鉛などが、一緒に摂るべき栄養素です。

人の体は、微妙なミネラルバランスで成り立っています。他の栄養素も一緒に、バランス良く摂るのが理想です。

また、一緒に摂ることで、鉄の吸収を逆に下げてしまうものもあるので、注意が必要です。お茶やコーヒーに含まれるタンニンや、加工肉や清涼飲料水、菓子パン、カップ麺などの加工食品に添加物として広く使われているリン酸塩などが、それにあたります。

鉄といえば、レバーやホウレンソウを思い浮かべる方が多いのではないかと思いますが、野菜の中では、モロヘイヤも鉄分が多い食品の1つです。

以下に、鉄を多く含む食品の鉄含有量のグラフを用意しましたので、参考にしてください。

食品100gあたりの鉄含有量

食品100gあたりの鉄含有量

日本食品標準成分表2020年版(八訂)より

「隠れ貧血」にも要注意!

特に「貧血」と診断されていなくても、鉄不足から様々な不調が起こることがあります。健康診断などの検査でも見落とされがちで、「隠れ貧血」と言われています。

動悸や息切れ、不眠症や神経症状、肌・爪・髪の異常、食欲不振、便秘や下痢、頭痛や肩こり、集中力低下、免疫力の低下…などの症状があって原因不明のときは、貧血を疑ってみるのも1つの解決方法かもしれません。

また、氷を無性に食べたくなる「氷食症」や、座ったり横になったりしたときに脚がムズムズと痒くなる「レストレスレッグス症候群」は貧血特有の症状なので、隠れ貧血発見の手がかりになります。

平井美穂

管理栄養士

平井先生のひとことコメント

平井美穂

鉄は「血を含むもの」や「土からしっかり養分を摂っているもの」に多く含まれます。

鉄は体内では合成できません。貧血や疲れやすさ、肩こり、冷え性などを解消するには、食事で鉄が不足していないかを見直しましょう。また、血液を作るために必要なたんぱく質やビタミン、ミネラル類が不足しない食事を心がけることも大切です。

以下は、食事の際のちょっとした工夫で、鉄を上手に摂るコツです。

●時々レバーを摂る
レバーには切り身の肉より多くの鉄が含まれていますが、ビタミンAも非常に多いため一度にたくさんの量を摂るのは控えましょう。
週に1回か、月に2回程度を目安に、少量のレバー料理を摂るのがおすすめです。調理が難しければ、市販のレバーペーストをパンに塗る、総菜のレバー煮を薄切りにしてニラやもやしと炒めるなどでもよいでしょう。

●たんぱく質を不足しないように摂る
赤身の肉、魚、卵、納豆、豆腐など、毎食少しでもたんぱく質を添えて食事を摂るよう心がけましょう。カツオやぶりなどの青魚の血合い部分には特に多くの鉄が含まれています。

●魚介や海藻を積極的に摂る
肉より鉄の多い魚介類や海藻を意識して摂りましょう。砂出しして冷凍保存しておいたあさりやしじみ、あさりの缶詰などを利用して、汁物に貝を加えましょう。

●緑黄色野菜を積極的に摂る
小松菜やほうれん草、モロヘイヤなどは、鉄のみならず、血液を作るために必要なビタミン、ミネラルを多く含みます。鉄の吸収を高めるためにも、毎食少しでも野菜を添えるよう心がけましょう。

●鉄の調理器具や「鉄たまご」を使う
鉄製の鍋やフライパンなどで調理すると、鉄が溶け出し微量ながら、鉄が摂れます。トマトや梅干し、酢などの酸が加わると溶出率は一層高まります。鉄を卵状に成型した鉄分補給用の商品「鉄たまご」を、鍋ややかんに入れ、煮込み料理や湯を沸かすのも得策です。

●鉄の吸収を妨げる「タンニン」を控える
珈琲、紅茶、抹茶、濃い緑茶、赤ワインなどには渋味成分の「タンニン」が多く、鉄の吸収を阻害します。食事中はタンニンの少ない麦茶やほうじ茶などにし、珈琲や緑茶は、食事から間隔をあけて楽しむのも1つの方法です。

以上、適切に摂りたい鉄ですが、肝臓病や鉄制限のある方はかかりつけ医の指示に従ってください。

PROFILE

管理栄養士・平井美穂

監修:平井美穂(ひらいみほ)

管理栄養士 / 食物栄養学修士 / 調理師 / NPO関西ウエルネス研究所理事

平井外科胃腸科クリニック(神戸市東灘区岡本)、その他透析病院等を含め医療機関にて栄養指導を行う。
百貨店・食品メーカー講師、レシピ提案など、乳幼児から高齢者までを対象に幅広い年齢層に対し、食と健康に関する講演会や料理講習会を行う。

第1回
栄養コラム

「王様の野菜」モロヘイヤ

第2回
栄養コラム

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第3回
栄養コラム

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今、大注目!食物繊維のすごい作用とは。

第4回
栄養コラム

<食物繊維 ③>

腸内細菌の活躍を支える、食物繊維の底力。

第5回
栄養コラム

<食物繊維 ④>

日本人の食物繊維を食べる量、実は足りていない!?

第6回
栄養コラム

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必要な分だけビタミンAに早変わり。驚異の抗酸化力、β-カロテン

第7回
栄養コラム

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第16回
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<鉄>

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第17回
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妊娠前から授乳期まで、妊娠を希望する女性には特に大切な「葉酸」。実は全ての人に必要な栄養素だった!

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第19回
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