毒性のある成分を持つ野菜は意外と多く、ジャガイモの芽や、青いトマト、生のインゲン豆など、身近な野菜でも部位や調理方法に注意が必要なものがあります。
このような毒性のある成分を、植物性自然毒と言いますが、モロヘイヤにも自然毒が存在します。
1996年、長崎県の農家で種子のついたモロヘイヤを食べた牛が中毒死した事例があります。モロヘイヤの種に含まれる強心配糖体が、この中毒の原因でした。
強心配糖体には多くの種類があり、そのいくつかは「心収縮力増強剤」として、うっ血性心不全の治療などに用いられるものもありますが、薬として使用した場合、不整脈や嘔吐、精神神経症状(不眠、幻覚、頭痛、疲労感)などの副作用が起こる場合があるそうです。
モロヘイヤに含まれる強心配糖体に関して、国の見解と2つの研究結果をご紹介いたします。
内閣府の食品安全委員会のオフィシャルブログには以下のようにあります。
強心配糖体による中毒の心配があるのは「種子とさや、発芽からしばらくの間の若葉」だけということです。
長崎の牛の中毒死事件から2年。1998年に、京都薬科大学の生薬学教室を中心とする研究チームが、モロヘイヤに含まれる既知の強心配糖体6種の他、新たに5種の強心配糖体を特定し、それらに強心作用があることを明らかにしました。
また、種子には強心配糖体成分が約1%含まれていたのに対し、他の部位にはほとんど存在しないこと、しかも種子の強心配糖体も発芽過程で急速に消失することを確認しています。
さらに、主たる強心配糖体であるオリトリサイド(olitoriside)を使った、マウスの毒性試験で、経口摂取での死亡例は見られなかったという報告もされています。
モロヘイヤに含まれる強心配糖体が、いつ、どの部位に存在するかに関しては、三重県科学技術振興センター保健環境研究部(現:三重県保健環境研究所)が、2001年に「日本食品化学学会誌」に発表した論文があります。
論文は、モロヘイヤの強心配糖体の主要成分である「ストロファンチジン」の量が、モロヘイヤの生育過程ごとにどのように変化するのかを調べたもので、その内容を図にしてみました。
● 種子 〜 収穫期までの、各部位のストロファンチジン量
ストロファンチジンは、種子に最も多く含まれていますが、発芽直後の双葉にもかなり含まれていることがわかります。
発芽からしばらくの間は、葉や茎や根にストロファンチジンが検出されていますが、生長するにつれてその量は減っていき、本葉が6枚になる頃には、葉や茎に残っている量は微量であることがわかります。
収穫期には、葉、茎、根、すべて問題にならないくらい微量になりますので、安心して食べていただけます。つぼみができる時期においても、つぼみを含む、各部位のストロファンチジンの量は、検出限界値以下です。
では、「さや」はどうでしょうか?
三重県科学技術振興センターの同じ研究結果からの情報ですが、さやの中で種子が生育していく過程でのストロファンチジン量の変化です。
● さやができてからの、果実中のストロファンチジン量
つぼみの頃までは問題ありませんが、花が終わり、さやができる頃からは注意が必要です。
さやができて4〜5日は検出されていませんが、それ以降はストロファンチジンが検出されています。
ストロファンチジンがあるかどうか、さやの外側からだけでは判断がつきません。さやを見つけた場合は、若いさやでも、取り除いてください。
モロヘイヤの種子やさやは、食べないようにしてください。
芽や葉も、発芽からしばらくの間(葉が6枚くらいになるまで)は、種子の中にあった強心配糖体が残っていますので、食べない方がいいでしょう。
市販のモロヘイヤは種子やさやがついていることは、ほとんどありませんが、自家栽培されたものに関しては、ついていることがあるかもしれません。その場合は種子やさやを取り除いて食べてください。