監修:管理栄養士 平井美穂先生
第10回
<ビタミンB群 ①>
ビタミンBは全部で8種類。総称としてビタミンB群と呼ばれています。
・ビタミンB1(チアミン)
・ビタミンB2(リボフラビン)
・ナイアシン(ビタミンB3)
・パントテン酸(ビタミンB5)
・ビタミンB6(ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミン)
・ビオチン(ビタミンB7)
・葉酸(ビタミンB9)
・ビタミンB12(コバラミン)
発見された当初は1つの水溶性ビタミンだと思われていましたが、その後、複数の物質であることがわかり、番号が振られることになりました。
私たちの体は、外から取り入れた食物や酸素などを使って、分解や合成の化学反応を起こしながら生命を維持しています。
その化学反応に関わるのが各種の酵素。ビタミンB群は、共通して酵素の働きを助ける補酵素として働いています。
それぞれの主な役割をみていきましょう。
エネルギー代謝の中でも特に、糖質をエネルギーに変えるのに必要なビタミン。
エネルギーをたくさん作るビタミンB1は、運動でエネルギーを使う人や、疲れがなかなかとれないと感じている人に欠かせない栄養素です。
また、お米やパンなどの炭水化物、甘いもの、日本酒やワインなどの醸造酒をたくさん摂る人も、糖質をエネルギーに変えるため、ビタミンB1がたくさん必要になります。
脚気は江戸時代から流行が始まり、毎年多くの人が亡くなりました。後にわかった原因は、ビタミンB1の欠乏症。当時、ビタミンB1の供給源は主に玄米でしたが、精白米を食べるようになって、ビタミンB1を十分摂れなくなっていたのでした。現在は、豚肉など、他の食品から摂取できているようです。
エネルギー代謝の中でも特に、脂質をエネルギーに変えるのに必要なビタミン。
脂っこい食事が多い人はぜひ摂るべき栄養素です。
また、コラーゲンの生成を促す役目も担うビタミンB2は、皮膚や粘膜、髪、爪などの再生にも役立っています。
ビタミンB2は「発育のビタミン」と呼ばれるほど、発育促進にとって重要。成長期の子供に不足すると、成長障害の心配があります。大人でもビタミンB2の不足によって皮膚炎や口内炎、舌炎などを引き起こすことがあります。
500種類以上の酵素の補酵素として働くナイアシンは、多岐にわたる機能に関わっています。
中でも「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、ナイアシンが不足すると生成されなくなってしまいます。これが、ナイアシンが心の健康に不可欠とされる理由です。
また、二日酔いの原因「アセトアルデヒド」の分解にも関わっているので、お酒をたくさん飲む人にも欠かせない栄養素です。
ナイアシン含有量の少ないトウモロコシを主食とする国や地域では「ペラグラ」に罹るリスクがあります。ペラグラはイタリア語で「皮膚の痛み」という意味。その名の通り皮膚症状がでますが、それ以外に、消化器や精神・神経にも様々な症状がでる病気です。
ストレスをやわらげる働きのある、副腎皮質ホルモンの合成を促すパントテン酸は、「抗ストレスビタミン」とも呼ばれます。
また、様々な代謝に必要な、アセチルCoAの成分になるという重要な役目も担っています。
「パントテン」という言葉の由来は、ギリシャ語の「どこにでも」意味する「pan」。その名の通り様々な食品に含まれ、どこででも手にはいるので、重要ですが摂取しやすい、頼りになるビタミンなのです。
ビタミンB6は、たんぱく質の代謝に欠かせないビタミンです。
たんぱく質はアミノ酸が繋がってできているので、アミノ酸の代謝にも関わっており、免疫機能の維持や赤血球のヘモグロビン合成、セロトニンやGABA、アドレナリンなどの神経伝達物質の合成を助けています。
それだけでなく、ビタミンB6は、脂肪の代謝にも関わり、肝臓に脂肪が蓄積するのを防いでいます。
ビタミンB6は、ヘモグロビン合成を助けるので、月経前症候群をやわらげると言われています。また、たんぱく質代謝増によるビタミンB6欠乏が原因とされる妊娠中のつわりも、ビタミンB6を摂ることで軽減できる、という研究もあるそうです。ビタミンB6は女性の味方ですね!
体内でコラーゲンを合成する材料となるアミノ酸の代謝に関わるビオチンは、皮膚や爪、髪、粘膜を健康に保つのに重要です。
また、ヒスタミンを抑える抗炎症物質を作って、アレルギー症状を緩和します。
生卵の卵白に含まれる物質が、ビオチンと結合してしまい、吸収を阻害します。毎朝卵かけご飯という人は、ビオチン欠乏に注意してください。欠乏すると、皮膚炎や結膜炎、脱毛、白髪の増加などが起こる可能性があります。
「造血のビタミン」と呼ばれる葉酸は、ビタミンB12と協力して赤血球を造るだけでなく、DNAの合成を促進して、細胞の生産や再生に関わるなど、私たちの体の成長に欠かせない栄養素です。
また、不足すると肝臓の代謝が滞り、動脈硬化を起こしやすくする物質が増えてリスクが高まります。妊娠中の女性に必要と言われますが、妊娠中の女性だけでなく、全ての人にとって重要な栄養素です。
胎児の神経管形成は受精後28日から6週目の終わりまでに完成します。十分な葉酸が一番必要な時期は、実はこの期間なのですが、母親が妊娠に気付くのは、胎児の心音が確認される6週目以降ということがほとんど。妊活をしている人が万全を期すには、妊娠前からの摂取が望ましいのです。
正常な赤血球を作り、脳神経や血液細胞など、多くの組織を健康に保つために必要な栄養素です。アミノ酸や核酸の代謝にも関わっています。
ビタミンB12は微生物が作るので、動物性食品に多く含まれ、野菜には含まれません。ビタミンB群の中で唯一モロヘイヤに含まれないのは、ビタミンB12です。そのためベジタリアンの人は不足する可能性があります。不足する場合は、ゴマやピーナッツ、栗などの種実類や、のりやあおさ、ワカメなどの藻類で補いましょう。
PROFILE
監修:平井美穂(ひらいみほ)
管理栄養士 / 食物栄養学修士 / 調理師 / NPO関西ウエルネス研究所理事
平井外科胃腸科クリニック(神戸市東灘区岡本)、その他透析病院等を含め医療機関にて栄養指導を行う。
百貨店・食品メーカー講師、レシピ提案など、乳幼児から高齢者までを対象に幅広い年齢層に対し、食と健康に関する講演会や料理講習会を行う。
管理栄養士
平井先生のひとことコメント
夏場、豚肉を食べよう!うなぎを食べよう!と盛んに言われますが、それはビタミンB1が豊富に含まれる食品であるからなんですね。
ビタミンB1は、食事でとった糖質をエネルギー(活力)に変換するために欠かせないビタミンであり、ご飯が主食の日本人にとっては特に重要な栄養素となります。
冷たい麺類やジュース、アイスクリームなど、糖質の摂取が多くなりがちな夏には、特に不足しないよう心がけたいビタミンです。
夏に限らず、偏食など食の乱れやストレスが多い方、汗をよくかいたり、お酒やお菓子などの糖質を多く摂る方も要注意。ビタミンB群の消耗が激しく、不足することも考えられます。
ビタミンB1が多い食品としては、代表的なものに胚芽やぬか、大豆、豚肉、ハム、レバー、うなぎなどが挙げられます。
水溶性ビタミンなので水に溶けやすい性質をもつため、汁ごと食べられる調理法がおすすめです。また、ビタミンB1の吸収を高めてくれるアリシン(硫化アリル)という成分(にんにくや玉ねぎ、ネギ、ニラ、らっきょなどに多く含まれます)と組み合わせて食べるのが得策です。
ビタミンB群は、その他、肉、魚、卵、牛乳などの動物性たんぱく質や豆、緑黄色野菜、海藻、ナッツ類など、あらゆる食品に含まれます。
栄養バランスのとれた食事から十分なビタミンB群を摂るように心がけましょう。